塩害の現状と対策の必要性

大石 龍太郎

(株)ランズビュー取締役
工学博士、技術士(総合技術監理・建設部門)
ニュートロン次世代システム技術研究組合理事
オリエンタル白石(株)常務執行役員
元土木研究所理事(兼)構造物メンテナンス研究センター長

1.塩害大国にならないために

事後保全対策から予防保全対策への早期転換

そのためには、RANSμ(塩分濃度非破壊検査装置)の活用(点検支援技術性能カタログ掲載技術)

目的

① 塩害による落橋防止、事故防止

② 塩害による短寿命化、架替え防止

③ 塩害対策修繕費の大幅削減

山口県復旧検討会議報告

原因

  1. 桁と橋台を固定する鉛直PC鋼棒が雨水で腐食、破断したこと(図1参照)。
  2. 腐食の要因として、
    ・重要な部材である鉛直・水平PC鋼棒の状態や水の侵入状況が直接目視できない構造。
    ・橋座部は侵入した水の処理(排水)ができない構造。

教訓

  1. ドルックバンド橋のような中央ヒンジを有する橋梁は、構造的には経済的ではあるが、中央ヒンジ部が自重及び活荷重等によって、垂れ下がってくる宿命を持っている。
  2. そのことにより他の部材に応力の負荷がかかり、その応力に対する対処が必要。
  3. 本橋の場合、桁と橋台を連結していたPC鋼棒が水や塩の影響を受ける環境や構造であり、その対策が 不十分であった。
  4. PC鋼棒の状況を把握できないために、腐食や破断 まで対処できなかった。
  5. 塩分濃度の検査を行うことである程度劣化状況の予 測は可能。
  6. PC鋼棒の劣化状況を非破壊で可視化できる検査装 置の開発が必要。

2.塩害による短寿命化、架替え事例

国内の重大損傷事例

教訓

  1. 1. 凍結防止剤(塩)の排水管理不足によるPC鋼材の腐食・破断。塩分の構造物に対する劣化の影響の認識と排除が 重要。
  2. PC鋼材やシースの腐食・破断が点検ではわからなかった。コンクリート構造物の内部の劣化損傷の非破壊での可視 化装置が必要。
  3. グラウト未充填が多数存在。この時代のグラウトはブリー ジングタイプのもので、特に上縁定着の場合には桁端部に空洞が発生しやすい。さらにグラウト注入空間が狭く、充 填管理が困難。
  4. 塩分の内部浸透が認識できていなかったためにPC鋼材 の腐食・破断が進行。塩分濃度の非破壊検査装置が必要。
  5. 最終的に架け替えとなってしまった。腐食の進行を管理で きるようにすることで大幅なコスト縮減が可能。

国道8号能生大橋等の架け替え計画

事業の概要

高田河川国道事務所が管理している国道8号日本海沿岸の橋梁は長年、潮風にさらされ、「コンクリート内部鉄筋等の錆」コンクリートのひび割れ」が点検で確認され、補修だけでは対応できない状態であったため、平成21年度から特に劣化、損傷が著しい9橋について架け替えなどの恒久対策を進めています。

高田河川国道事務所ホームページより

3.事後保全対策の補修方法

① 断面補修

② 鉄筋防錆

③ 電気防食

④ 脱塩 等

4.塩害に対する国土交通省の点検、補修の考え方

1)コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案)
(国土交通省道路局平成16年3月)

  • 予防保全的な観点から、原則として10年に1回行う特定点検
  • 直轄国道の橋梁に適用
  • 塩害地域の中でも塩害による劣化を受けやすい構造物を早期に発見し,コンクリート中の鋼材が塩害により腐食する前に予防保全的な補修を行うことを 想定
  • 塩分としては、海からの飛来塩分や凍結防止剤・融氷剤として路面に散布される外的塩分と内在塩分がある。
  • 下部工の塩分濃度検査→上部工の塩分濃度検査
  • φ50mmのコアでは1本等での破壊検査実施
  • 実態としては、構造物を痛める等により多くは行われていない。

2)塩害橋梁維持管理マニュアル(案)
(国土交通省北陸地方整備局平成20年4月)

  • 直轄国道の塩害環境下に あるコンクリート橋の上部構造のうち,外観に塩害によると思われる損傷が現れている橋梁の維持管理に適用する。
  • ➢定期点検で判定 区分がB※2 (状況に応じて補修を行う必要がある),C※2 (速やかに補修等を行う必要
    がある),S※2 (詳 細調査の必要がある)と判定されたもののうち,損傷原因が塩害と考えられる橋梁に対して詳細調査および補修・補強対策を実施

5.塩分濃度非破壊検査装置開発が必要とされる理由

  • 事後保全的措置から予防保全的措置へ転換
  • 塩害による莫大な維持管理費を投資している。
  • 塩分濃度調査に時間がかり現場では濃度がわからない。
  • 下部工を調査後に上部工の調査を行う。
  • コアを抜く調査方法であり、構造物を傷つける。
  • そのため、塩分濃度調査は実際あまり行われていない。
  • 塩分濃度を非破壊で、現場で何カ所も直接測ることができるポータブルな装置が必要
  • この装置により莫大な維持管理費の削減、長寿命化が可能となる。

6.装置開発の維持管理費縮減効果

  • 直轄橋梁(約3万8千橋)の修繕費の内、約半分が塩害によると仮定すると、20年間に約2500億円(年間125億円)節約できると推計。
  • 全国の道路橋の塩害対策を現在の事後保全的対応から予防保全的対応に転換することで、年間500億から1000億円の修繕費の節約が可能となる。
  • 妙高大橋のようなPC鋼材破断による架け替えを未然に防止できる。
  • 塩害が進行すると、寿命を維持するために電気防食や脱塩、ケーブル補強等を実施せざるをえなくなり、莫大な修繕費がかかることになる。
    事例;西湘バイパス(NEXCO中日本)、延長2km,100径間,約270億円の塩害対策費

7.塩害対策の現状と課題(研究論文等より)-1

  • 5年に1度の頻度で実施している定期点検は、現状では近接目視点点検が基本であり、中性化や塩害等、潜在的な劣化因子の浸透状況を判断することは困難である。化学的反応が原因で変状発生し、それが内在している場合、鉄筋腐食やこれに伴うひび割れ発生、剥離・剥落等の変状が顕在化するまでは、見かけ上健全と評価されてしまうこととなる。
  • 塩害の場合は、コンクリート橋の表面に腐食ひび割れなどの損傷が発生するのは、加速期に移る段階であり、ひび割れ箇所以外でも鉄筋の腐食が始まっているおそれがある。また、その後の対策が遅れると、劣化が急速に進行するおそれがある。
  • 塩害によるコンクリート橋の劣化を正確に予測することは難しい。
  • 塩害地域の PC プレテンション桁では錆汁を確認後の事後保全対策では手遅れであり、錆汁の発現前に予防保全対策が必要である。例えば、鋼材位置の塩分量を指標とした、健全度評価が有効と考える.また,錆汁発現後は PC鋼材破断のサインと捕らえた緊急調査,更新を含めた対策立案が重要となる。
  • 非破壊試験、特にコンクリート特有の化学反応を捉えるには、塩害、中性化、アルカリシリカ反応を定量的に、そして的確に捉えることが必要で、それを可能とする試験法を積極的に活用することが適切である。

8.塩害対策の現状と課題(研究論文等より)-2:凍結防止剤

  • 土木学会コンクリート委員会凍結防止剤WG報告:平成6年当時として、凍結防止剤がすでに広い範囲でコンクリート中に蓄積し始めており、年とともにそれが、中の方へと移動していることが明らかになった。したがって、コンクリート中の鉄筋の腐食が我が国で問題になるのは時間の問題である。
  • コンクリート工学会融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会:平成11年 我が国の融雪剤の使用量は欧米諸国に比べれば未だ少ないため、現時点ではコンクリート構造物の劣化の事例は少ないと思われているが、このまま毎年融雪剤の散布が繰り返されれば、その塩化物はコンクリート部材中に徐々に蓄積されて行き、ある限度を超えたときに一斉に劣化が発生するようになると考えられる。
  • 塩化物が作用したために起こるコンクリート部材の劣化は、コンクリート表面の激しいスケーリング劣化として現れる凍害、アルカリ骨材反応の促進、コンクリート中の鉄筋の急速な腐食などが主なものであるが、いずれもひとたび劣化が発生する段階になるともはやこれらの劣化を止めることは難しく、完全に元に戻すことは不可能である。従って、これらに対しては、未だ劣化が発生していない時点で劣化の発生を予測し、あらかじめ防止対策を講じておかなければ取り返しのつかない大変なことになる。
  • 塩害は、塩化物イオンがコンクリート中に浸透することにより劣化が進行するが、加速期に達するまで外観に損傷が現れないため、通常の目視主体の定期点検では要対策と判定されない。塩害劣化状況を把握するには、試料を採取し塩化物イオン量試験を行う必要がある。凍結抑制剤による塩害については劣化進行に及ぼす影響要因が不明確でありそのような劣化予測手法が一般化されていない。
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