道路橋のリスクマネジメント

大石 龍太郎

(株)ランズビュー取締役
工学博士、技術士(総合技術監理・建設部門)
ニュートロン次世代システム技術研究組合理事
オリエンタル白石(株)常務執行役員
元土木研究所理事(兼)構造物メンテナンス研究センター長

① 道路橋の管理はリスクマネジメント

② 近年の落橋等の重大損傷事例とその教訓

③ 最近顕在化してきたRC床版の損傷事例

④ 道路橋の耐震補強とその効果

⑤ ニューマチックケーソン基礎工法の活躍

「道路橋の管理はリスクマネジメント」

道路橋管理の目的

① 安全で

② 円滑な交通の確保

③ 沿道や第三者への被害の防止

上記の目的を阻害するリスクの除去、回避を図る

  1. 最も被害が発生しやすいものは、道路附属物(笹子トンネル等)
    (構造上、本体施設に付加するため、接点部の面積が狭く、応力集中、腐食等の劣化が進みやすい)
  2. ゲルバーヒンジ橋の落橋事故とその教訓
  3. 斜面上の直接基礎の崩落とリスク対策
  4. 最近のRC床版の穴あき事故の顕在化と対応
  5. 道路橋保全に関するPDCAサイクルの不連続性の改善
  6. 点検・診断技術の壁(目視による点検・診断の限界)
  7. 道路管理ツールの現場への導入(効率化、災害対応)
  8. モニタリングは老朽化した橋梁等の状況把握には役立つ
  9. 道路橋の保全には、調査リスク、設計リスク、施工リスク、管理リスクが内在しており、それらのリスクを除去できる業務プロセスの構築が重要
  10. 重大事故には兆候がある
  11. 道路橋の点検・診断は上記の目的を達成するために行うもので、個別の橋梁において、その構造特性を勘案し、崩壊リスク分析の元、そのリスクに大きく影響を与える部材、部位、損傷に着目して点検・診断を実施し、必要な措置を行うべき。点検・診断を目的化してはいけない。

2.海外の落橋等の重大損傷事例とその教訓

教訓1

  1. 点検時の異常を見落としていた。(ガセットプレート塑性変形の認識不足:その部材に降伏応力以上の荷重がかかった証拠)
  2. 設計ミスのチェック不足(必要な厚さの2分1で設計)
  3. 橋梁の劣化の進行は認識していたが、その補修のための資機材を橋桁に大量に載せ、腐食による断面欠損も進行し、潜在的に耐荷力が低いことが重なって落橋した。(複数の落下要因が重なると重大事故を招く)
  4. 設計、施工、管理の各段階での適切なチェックで重大事故は防ぐことができる。

道路構造物研修(国交大)

教訓2

  1. ゲルバーヒンジ橋は、応力計算が簡単で経済的に見えるが、ヒンジ部が脆弱な構造。
  2. ヒンジ部では漏水、応力集中が生じやすい構造になっているため、劣化損傷しやすい。
  3. ヒンジ部の破壊形態は脆性破壊の可能性が高く、対処がしづらく、死亡事故につながる。
  4. そのため、ヒンジ構造の変更、つまり連結をして曲げ破壊形式にして、耐荷力の向上が必須である。

教訓3

  1. ゲルバーヒンジ橋でヒンジ部に損傷が出ているにも拘わらず、100tもの自動車を通行させるのは無謀であり、管理者としての橋の耐荷力の認識の欠如
  2. ゲルバーヒンジ橋の崩壊形態の認識の欠如により、交通規制が片側だけになっているのは間違い。
  3. ゲルバーヒンジ橋は非常に脆弱な構造形式と認識すべき。

教訓4

  1. 鋼橋におけるゲルバーヒンジ橋も、漏水、応力集中によるリスクが高い。
  2. 繰り返し荷重による亀裂が発生して段差が生じる可能性がある。
  3. そうならないためには、応力集中部の補強が必要。漏水対策も必要。

教訓5

  1. PC斜張橋での4本ケーブル支持の構造は、脆弱な構造形式である。1本のケーブルが破断すると落橋してしまう。
  2. 海岸線からちある程度近い場所の橋は塩害のリスクに曝されており、外観からはわからないうちに内部の鋼材の腐食・破断が進行している可能性がある。
  3. メンテナンスを怠ると、それらがある日突然破断して落橋することがある。
  4. 非破壊で内部の劣化損傷が可視化出来る装置が必要である。


教訓6

  1. アーチ橋における吊り弦材と定着部の状況が点検しにくい構造となっていたため、点検を長年していなかった。点検をしやすい構造が望ましい。
  2. 港湾管理者による管理であったため、専門家が存在せずに、点検そのものを怠っていた。管理 者としての自覚と責任を持てる体制が必要。
  3. 施工が設計と違った形で行われており、防水機能の確保などがずさんであった。施工管理の適 正さを確保する必要がある。
  4. 海岸部に位置する橋梁のため、塩害に対するリスク認識を持つべき。それらのリスクに対する点 検・診断・対処が必要。

教訓7

  1. 1. 新設時の予算削減による手抜き工事の可能性大。監督管理欠如。
  2. 開業時からのトラブル続出。必要な予算を充てることで品質を確保できるはず。
  3. 周辺住民の苦情に対しての管理不足。
  4. 高架橋下の自動車交通へのリスク認識不足。絶対に落橋させてはいけない管理が必要。

崩落原因と教訓

[原因]

  1. ファーン・ホロー橋の橋脚には、点検報告書に記録されている重大な劣化と断面損失が発生してい た。劣化と断面損失は水分と瓦礫の継続的な蓄積によって生じ、無塗装耐候性鋼材ではそのような腐食に耐える保護層の緑青(ろくしょう)の形成が妨げられていた。(凍結防止剤の塩による腐食もある)
  2. 不完全なメンテナンス問題(点検報告書ではメンテナンスが必要であると指摘されているにも拘わらず実施していない)

[教訓]

  1. 無塗装耐候性鋼材に対して適切なメンテナンス作業を実施しないと、重要 部材の腐食損傷、劣化、断面損失が発生し、橋梁の安全性と耐用年数が低下する可能性がある。
  2. 国家運輸安全委員会 NTSB は、連邦道路庁 FHWA がリスク重視型で、かつデータ中心型の処 理方法を開発し、州交通局、幹線道路橋を維持・管理する連邦機関や部族政府による処理方法の使用材を奨励し、道路橋を特定し、優先順位付けを行い、さらに無塗装耐候性鋼を備えた道路橋の点検で記録・指摘された追跡措置を実行できるようにする事を推奨する。

3.国内の落橋等の重大損傷事例とその教訓

教訓8

  1. 1. 凍結防止剤(塩)の排水管理不足によるPC鋼材の腐食・破断。塩分の構造物に対する劣化の影響の認識と排除が 重要。
  2. PC鋼材やシースの腐食・破断が点検ではわからなかった。コンクリート構造物の内部の劣化損傷の非破壊での可視 化装置が必要。
  3. グラウト未充填が多数存在。この時代のグラウトはブリー ジングタイプのもので、特に上縁定着の場合には桁端部に空洞が発生しやすい。さらにグラウト注入空間が狭く、充 填管理が困難。
  4. 塩分の内部浸透が認識できていなかったためにPC鋼材 の腐食・破断が進行。塩分濃度の非破壊検査装置が必要。
  5. 最終的に架け替えとなってしまった。腐食の進行を管理で きるようにすることで大幅なコスト縮減が可能。

教訓9

  1. 耐候性鋼橋が長年の潮風により落橋。耐候性鋼橋は塩分に非常に弱い。塩分環境では使用してはいけない。
  2. 村が管理していて落橋の危険性を認識できず。専門家により指摘され、交通止めをした。市町村への専門家の支援が必要。

教訓10

  1. 斜面上の直接基礎はリスクがある。
  2. 斜面は、豪雨や地下水、地震等により不安定になることがある。
  3. 斜面崩壊により、橋台が崩壊するリスクがある。
  4. 豪雨や地震等により、斜面が不安定になった場合でも、橋台崩壊を防ぐために直接基礎を避け、支持地盤上に基礎を置くべき。

教訓11。

  1. 交通規制が避けられる床板の下面増し厚はリスクが大きい。
  2. 増し厚したコンクリートと既存床板の接着力を期待してはいけない。リスクがあるのでゼロと考えるべき。やむなく行う場合には機械式継手を行う。
  3. 耐久性からは、交通規制を行ってでも基本的には、上面増し厚工法で行う。

山口県復旧検討会議報告

原因

  1. 桁と橋台を固定する鉛直PC鋼棒が雨水で腐食、破断したこと(図1参照)。
  2. 腐食の要因として、
    ・重要な部材である鉛直・水平PC鋼棒の状態や水の侵入状況が直接目視できない構造。
    ・橋座部は侵入した水の処理(排水)ができない構造。

教訓12

  1. ドルックバンド橋のような中央ヒンジを有する橋梁は、構造的には経済的ではあるが、中央ヒンジ部が自重及び活荷重等によって、垂れ下がってくる宿命を持っている。
  2. そのことにより他の部材に応力の負荷がかかり、その応力に対する対処が必要。
  3. 本橋の場合、桁と橋台を連結していたPC鋼棒が水や塩の影響を受ける環境や構造であり、その対策が 不十分であった。
  4. PC鋼棒の状況を把握できないために、腐食や破断 まで対処できなかった。
  5. 塩分濃度の検査を行うことである程度劣化状況の予 測は可能。
  6. PC鋼棒の劣化状況を非破壊で可視化できる検査装 置の開発が必要。

4.最近顕在化してきたRC床版の損傷事例

最近の損傷事例から考察される、新たな損傷パターン

事例からの考察

  • 同一箇所で舗装補修が(短周期で)繰り返されている。
  • 舗装のひびわれからは、土砂化を示す泥水が漏れ出している(漏れ出た痕跡がある)。
  • 床板下面に大きな変状を伴わずに進行する。
  • 舗装面の異常は、床板の土砂化を疑うべき!
  • 床板下面の観察を主体とした、床板損傷に関する点検だけでは予測困難!
  • 道路パトロール時に気をつけて見る!

損傷パターン2(想定)

土砂化が主因(従来、床板の損傷と捉えなかったパターン)

5.道路橋の耐震補強とその効果


6.ニューマチックケーソン基礎工法の有用性

  1. ① 最先端のICT技術(国土交通省のICT技術の主流 は土工、次に舗装)である。→無人化→自動化
  2. 特徴
    • 高耐震性
    • 支持地盤直接確認
    • 地下水を低下させない
    • 騒音等周辺ヘの影響が少ない
    • 近接、狭隘地での施工可能
    • 大深度施工可能
    • 高品質
    • 工期短縮 等

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